2022年7月14日午後、日本貿易振興機構(ジェトロ)上海代表処が主催する中国知的財産権問題研究グループ会議(以下総称「IPG大会」)は、予定通り上海で開催された。
日本貿易振興機構上海代表処知的財産権部(以下、「ジェトロ上海代表処知財部」と略称する)は主に、中国に進出する日系企業が各種の知的財産権問題の対応に協力し、様々な情報交流活動を展開する。現在、中国のIPG会員企業は230社近くとなり、会員同士が定期かつ積極的に交流を行う。IPG大会は、IPG各活動の中の重要な一環であり、すでに20年近く開催し続けている。
今回のセミナーは、ジェトロ上海代表処知財部の岸本部長が司会を務め、上海政法学院の商建剛准教授、広東敦和法律事務所の管理パートナーの羅亜菲弁護士、広東敦和法律事務所の顧問弁護士の印晳哲弁護士が今回の講演ゲストとして招かれた。
(岸本部長) (商建剛准教授)
(羅亜菲弁護士) (印晳哲弁護士)
本セミナーは約3時間にわたり、主に中国法におけるトレードドレスの様々な保護ルートをめぐり、各法益の視点から、権利保護の対策・考え方を検討した。
まずは羅亜菲弁護士がトレードドレスという概念を導入し、トレードドレスが欧米・日本などでの保護状況を紹介した。中国の現行法体系におけるトレードドレスの保護経路及び保護事例を論述した。また、中国の「不正競争防止法」及び新司法解釈に立脚し、事例を通じて包装・装飾の権利保護の方法及び実務観点を説明し、トレードドレスの侵害状況に対して、いろんな角度で権利保護の対策案を提供した。
2人目の講演者である印晳哲弁護士は、商標法におけるトレードドレスの具体な保護形式、即ち、立体商標(三維標識商標)を紹介した。立体商標が中国・日本での立法経緯・登録範囲の違い、及び立体商標とその他のトレードドレスの法的保護を図表の形で比較することで、立体商標の位置づけを明確した。また、立体商標の出願・審査・権利保護実務等の面において、事例を上げながら説明し、視聴者に立体商標の立法・審査・司法状況をよりよく理解させる。
商建剛教授は本セミナーのトリとして、意匠特許の司法裁判と保護実務を紹介した。商先生は、「カシオ」腕時計の意匠権侵害紛争という典型事例を通じて、近年の上海裁判所の知的財産権の保護状況を深く分析するとともに、侵害認定の要点及び賠償金の計算要点を「手取り足取り」視聴者に詳しく説明した。第二部分はGUI意匠特許の立法動向をめぐり、自ら審理した事件を列挙し、GUI保護における異なる考え方を説明し、自分の観点を発表した。最後に懲罰的賠償制度の司法適用を論述し、独自の研究成果を共有した。目下、意匠権の立法・司法の保護における新たな風向きについて、独自の見解を述べた。
意匠特許保護における立法動向及び司法実務
■ 商建剛准教授
01
事例の共有–(2019)沪73民初302号事例
✦
「カシオ」腕時計に関する意匠権侵害紛争事例は、「2021年上海法院の知的財産権保護強化における典型事例」を受賞し、デザイン性の強い意匠権の市場価値を十分に理解し、裁判所が中国と外国の知的財産権を平等に保護することを体現した。
目下、上海知識産権法院が受理した知的財産権事件は、意匠権に関する事件が大幅に増加し、新型事件の種類が増え、社会影響の高い事件が多い等の特徴を示している。
02
GUIの立法動向
✦
GUI設計における侵害認定の比較方法について、以下の三つの観点がある。
GUI設計は、従来の意匠特許と異なり、その客体は特殊性があり、かつ電子製品に依存しなければならないため、GUI設計は製品全体の外観を占めることができず、製品の一部に対する設計・装飾となる。即ち、製品の局部意匠に属し、その最終目的はヒューマン・マシンのインタラクション又は製品の機能を実現するためであり、特定製品には制限されない。
局部意匠保護の考え方を採用することで、GUI設計の特許紛争において、設計者に全面な保護を与えることができ、意匠特許の制度による保護をインターネット業界の急速発展に追いつき、意匠特許権の本質をよりよく示すことができる。
03
懲罰的賠償制度
✦
2021年2月7日、最高人民法院審判委員会第1831回会議で、「知的財産権侵害民事事件の審理における懲罰的賠償の適用に関する解釈」が採択された。
当該「解釈」の第3条・第4条・第5条には、それぞれ「悪意」に対する認定、「情状が深刻」に対する認定及び「懲罰的賠償の倍数」の確定が規定されている。
最後に、商先生は懲罰的賠償制度に関する自分の研究成果の一部を紹介した。
不正競争防止法の新解釈におけるトレードドレスの保護ルート
■ 羅亜菲弁護士
目下、中国の現行法体系におけるトレードドレスに対する保護経路は4種類である。それぞれ「商標法」・「専利法」・「著作権法」・「反不正競争法」から保護されている。
そのうち、羅亜菲弁護士は、「反不正競争法」を通じてトレードドレスを保護する場合、顕著性(「反不正競争法解釈」第5条・第6条・第7条)・一定の影響力を有する(「反不正競争法解釈」第4条)・混同の可能性を有する(「反不正競争法解釈」第12条)の三つの要件を満たす必要があることを重点的に説明した。
さらに、「反不正競争法」第2条に基づき、トレードドレスを保護することも可能。
上記の事例では、被告は、原告の製品デザインを模倣し、商品名に「赤底の靴」を使用し、さらに、原告の製品の包装と宣伝文章を使用する行為は、売上を高める意図だったと認定された。かかる行為は経営活働が遵守すべき誠実信用原則に違反し、公認された商業モラルに反するものであり、不正競争行為であると認定された。
最後、様々なトレードドレスの侵害方式に対して、羅亜菲弁護士は二つの保護対策の考え方を列挙した。
立体商標の多次元比較と司法保護実務の探求
■ 印皙哲弁護士
印晳哲弁護士は、立体商標が中国・日本での立法経緯・登録範囲の違いを簡単に紹介し、立体商標と意匠特許・著作権・反不正競争法を比べて、保護期間・範囲・審査難易度・出願期間・権利侵害認定・保護法益等をそれぞれ説明した。
立体商標の出願における形式審査と実質審査の注意点を紹介し、実質審査における立体商標の非機能性と顕著性の要求及び克服方法を詳しく解説した。
最後に、印晳哲弁護士は立体商標に関する権利保護事例を紹介した。
レゴ社が忠諾社を訴えた事例において、係争特許製品は先行商標権を侵害するか否かを判断する際、1)係争特許と先行商標が使用される商品は、同一又は類似の種類に属するか;2)係争特許には、登録商標と同一又は類似のデザインが含まれているか否か;3)係争特許の実施は、公衆の誤認、または係争特許製品の出所が先行商標権者の製品であると誤認させて、商標権者の合法権利又は権益を損なうか否か。以上の角度から考慮する必要がある。
セミナーの最後、視聴者はオンラインで質問を提出し、講演者と交流を行った。今回のセミナーは、日本企業・在中日系企業に、より良い交流の場を提供し、中日同時通訳の形式を通じて、素晴らしいをセミナーとなり、円満にお開きした。